窪田畜産様では、ご主人と奥様のお二人にお話を伺いました。
―MOOVIE分娩検知システム導入前の課題は何でしたか?
ご主人:人的なメリットが大きいですね。牛の頭数も増えてきて毎日分娩があるので、誰かしら農場にいなければお産に対応できなくなっていました。買い物に行くにしても、畑に行くにしても、常にお産を気にしなければなりません。いつ何があってもいいように誰かが必ず残らなければならなかったのですが、わかる人でないと残れませんので、どうしても同じ人に負担が集中し、長時間外出することができませんでした。
また、夜中のお産はほとんど家内がみてくれていました。自分たちの子どもに夜中に授乳していても、お産の近い牛が気になってしまい、起きたついでに牛を見に行ったりしていました。夜中まで起きていてくれる家内に負担をかけていることがずっと気になっていました。
奥様:牛のお産が近づくと、夜も気になってあまり寝た気になれませんでした。日中に産まれるのはたいてい安産で、トラブルがあるのはほぼ夜中なんです。逆子もあれば死産もあります。自分が妊娠しているときは大事をとって牛の世話は控えていましたが、子どもが産まれた後は授乳のついでに牛を見に行く、ということをしていました。
―導入のきっかけは何ですか?
ご主人:スマート農業が注目されるご時世なので、この流れに乗ろうと考えました。せっかく生まれた子牛が死んでしまうようなことは防ぎたかったので。
―導入の決め手は何ですか?
ご主人:カメラでの監視はほかにもありますが、ただカメラで見るだけのもので、お知らせまでしてくれません。MOOVIEは、牛に機材をつける負担がなく、通知の精度も高いのがいいと思いました。牛に機材をつけるものは、つけたり外したり洗浄したりと、作業が大変ですから。
奥様:機材をつけるタイプは、頭数が少なく、お産がいつになるか分からない場合はとても助かると思います。ですが、牛が嫌がることがありますし、私には無理だと思いました。頭数が多いところは毎日のようにお産があるので、カメラで監視する方が負担が少ないと思いました。
―実際の使い心地や効果はいかがですか?
ご主人:導入直後はお知らせになかなか慣れなくて大変でした。多い時もあり、全然ない時もあり。アプリをバックヤードで動かしておかないとお知らせしてくれません。今はその仕組みが分かったので、うまく活用できるようになりました。
以前は2台しか設置していなかったのですが、だからといって2部屋だけしか見なくていい、というわけではありません。カメラを信頼していない、ということではなく、他の部屋も見ないといけないので、そのついでにカメラを設置した部屋もチェックしていました。ですので、実はその頃はアプリをあまりチェックしていませんでした。
それが、今回、20台入れることで全部の部屋がアプリで確認できるようになりまして。お陰でだいぶ楽になりました。夜中も寝られます。畑に行っても買い物に行っても、お知らせがあったら帰ってくればいいので。
奥様:アプリを使い始めて2年目になります。カメラの位置が重要ですね。最初は位置が悪く、画像が良くなかったのですが、位置を変えてもらった後は良い画像が送られてくるようになりました。(牛が)座っているだけだった、ということも何度かあります。ただ、1時間経っても変わらない、という場合は何かある可能性が高いです。様子見でいいのか、緊急を要するのかの判断は、自身の経験がものをいうようになってきます。
分娩事故は明らかに減ってきましたが、流産・早産・死産はどうしようもない。胎盤剥離を見抜くのも至難の業です。何かあった時も、カメラがあるとスタートまで巻き戻して、どういう問題が起こっていたのか確認することができます。たとえば、1時間経っても同じ状態なら中で破水しているかも、とか。胎児が大きい時も、痛いから親がいきみたがりません。「気持ちはわかるけど…出すよ?」と声かけしています。
カメラを設置してから、牛を良く見るようになりました。まずは自分たちがカメラに慣れる必要がありました。ただ、カメラも頼りにしているけど、自分たちの感覚も大事にしています。
―まだ導入されていない方へのメッセージ
ご主人:牛舎が遠いところや飼育頭数が多いところにはとてもいいと思います。うちはたまたま牛舎が目の前ですが。うちの場合は産まれるのが月30頭ぐらい、しかも、入れ替わりも激しいので、カメラの数が増えれば増えるほど安心できます。
MOOVIEは奥さんにとって特にいいシステムだと思います。畜産農家で女性は重要な役割を担っているのに、外で研修などに参加する機会が極めて少ないです。家内が畜産農家の女子会の運営に参加していますが、女子会の活動で初めて他人の家の牛小屋を見た、という方もいるそうです。自分の経験からも、外に出ることはとても勉強になると確信していますが、そういうのはどうしても男の人が主体になってしまいます。女性がもっと外に出て行ってもいいのではないかと思います。
奥様:家から牛舎まで遠い人にはお勧めです。ただ、頭数が少なければ、牛に直接取り付けるタイプの機器のほうがいいかもしれません。
アプリの操作性がもっと良くなればいいですね。例えば、スクロールで全部見れるようになるとか。今は、一回一回閉じて開きなおさないといけないもので。分娩が近い牛についてはお知らせが来ますが、他の牛も見たいんですよね。
―今後のビジョンを教えてください
ご主人:今後600頭まで増やしたいですね。1日2頭産まれる計算になります。今は1日1頭ペースで月30頭ぐらいです。これを倍に増やしたいですね。
コロナでただでさえ他人と会う機会が減っていますが、私のような職業だと特に、家の中で仕事も生活もすべて完結してしまいます。他人と会う機会がどうしても減ってしまうからこそ、いろんな人とコミュニケーションをとることが大切だと思います。
畜産は昔とは大きく変わっています。昔は雨靴を履くのが当たり前でしたが、今ではスリッパで歩き回ることもできないことはありません。危険なので推奨しませんが。機械化も進み、重労働という感覚はないですね。掃除から給餌までほぼ機械で済みますから。実のところ、牛の世話は家内と従業員が二人でしています。自分たちはほぼ外回りです。
奥様:現在、霧島、姶良、湧水で肉用牛を飼育する女性たちで結成した『姶♡LOVE和牛女子』の活動に参加しています。2017年に全共(全国和牛能力共進会)の第12回大会(2022年)が鹿児島で開催されることが決まり、それに向けて何かおもてなしができないかと有志が集まって立ち上げました。女性は農家で重要な役割を果たしていますが、ずっと家庭にいて人に会うことがない人もいます。普段あまり外に出ないという女性でも「勉強している」というと出やすいんです。
今はコロナでなかなか集まれないから、『姶♡LOVE和牛女子』のメンバーが農家をまわっています。一般の方に向けて話をする機会もありますよ。たとえば、「どうして農家になったか?」とか、「楽しいことや苦しいこと」、「これからどうしたいか?」など。インスタグラムもあります(『姶♡和牛女子』)。子育て経験があるメンバーに子育ての相談事もできますし、具体的なアドバイスももらえます。他地域にも同じような集まりがあり、リモートも駆使して全国で繋がろうとする動きもあるようです。
「農家のお嫁さんは大変」といわれるけど、機械化も進んでいますし、畜産は全然大変じゃないですよ。機械化できない作業には男性の力が必要なこともありますが。
もう何年も前の話ですが、デンマークの酪農家に長期滞在したことがあります。ステイ先には牛が60頭ほどいたのですが、年配の男性がたった一人で管理していました。当時すでにデンマークでは畜産にロボットを取り入れていて、作業はかなり省力化されていました。野菜も作っていましたよ。牛を飼ってたい肥も出るから。
日本の農家はずっと忙しいですが、デンマークでは農家がそこまでしなくていいようでした。ステイ先の主人は、旅行で長期間不在にしたこともありましたね。日本ではまだまだ機械化の話を耳にすることが珍しかったころの話です。日本人とはずいぶん考え方が違うと思いました。日本人はどちらかというと休むことに罪悪感を持ってしまうのかもしれないですね。
これまで数えきれないほどの子牛を取り上げてきましたが、牛のお産は今でも怖いです。難産で母牛が苦しんでいると、「なんで生まれないのかな?」と心配になります。そういう時は他人任せにせず、自分が手を入れてみて確認するようにしています。牛はかわいいですよ。自分の子どものように感じています。
―窪田畜産様の今後ますますのご発展をお祈り申し上げます。
貴重なお話をありがとうございました!
窪田畜産
事業形態:繁殖
飼養頭数:400頭(※取材当時)
社員数:7名(※取材当時)
所在地:鹿児島県霧島市国分郡田3669番地3